弁護士 町田裕紀(まちだ ひろのり)

生産緑地の買取価格

 生産緑地の買取は「時価」でなされます。それでは、「時価」とは、いったいいかなる基準で決まるのでしょうか。

 「時価」とは、不動産鑑定士、公官署等の公正な鑑定評価を経た近隣地の正常な取引価格や公示価格を考慮して算出された金額をいいます。
 もともと、生産緑地の買取制度は、生産緑地の所有者に対する権利救済として設けられたものですから、その買取価格たる時価は、生産緑地法の各種の制限が付された土地としての評価額ではなく、市街化区域内にある農地(宅地見込地)としての評価によるべきとされています。

 ただ、そうなると、買取側である市長等は大変な支出を強いられることになります。現実には、市長等が税金により広大な生産緑地を宅地並みの価格で買い取ることは困難と思われ、買取がなされないまま生産緑地指定が解除されるケースが多いようです。

 なお、実際に時価がいくらになるかについては、買い取る者と生産緑地の所有者が協議して定めることになっています。もし、協議がまとまらない場合には、収用委員会に裁決を申請することができ、その裁決により時価が決定されることになります。

農業の主たる従事者とは

 前回お話したとおり、農業の主たる従事者が死亡し、又は、農業に従事することが不可能になったときには、生産緑地の買取請求が認められていますが、農業の「主たる従事者」とは一体誰を指すのでしょうか。

 「主たる従事者」とは、農業に専業従事する者はもちろんのこと、兼業で従事する者であっても、その者が従事することができなくなったために農業経営が客観的に不可能となるような場合におけるその者も含まれ、世帯主に限定されるものではありません。
 また、農業は家族経営で行われることも多いことから、主たる農業従事者と共に、一定割合以上農業に従事している者、具体的には、
� 主たる従事者が65歳未満の場合、その従事日数の8割以上従事する者
� 主たる従事者が65歳以上の場合、その従事日数の7割以上従事する者
も、「主たる従事者」に含まれるものとされます。

 「主たる従事者」に該当するか否か、「一定割合以上農業に従事している者」に該当するか否かは、市長が判断します。そして、買取申出の際には、個々の従事者の従事日数を把握するため、農業委員会の証明書を添付することになっており、市長の判断が客観的なものとなるよう配慮されています。

 買取申出の事例ではありませんが、相続税の更正処分に対する取消請求訴訟において「主たる従事者」の解釈が問題となった事例があります(名古屋地裁平成13年7月16日判決、判タ1091−224)。
 上記判例においては、「主たる従事者」の判断基準につき、その者の死亡により、所有者となった相続人が質的又は量的に従前と異なる新たな負担を余儀なくされるような場合には、当該被相続人は「主たる従事者」に該当すべきであると判断した上、この新たな負担とは単に労働力の提供という要素のみに限定されるべきではなく、資本その他の経営面における要素を総合考慮すべきであると判示しました。
 事例は異なるものの、数少ない裁判所の判断だけに、参考になるものと思われます。

生産緑地の買取申出制度

 今日は、生産緑地の買取申出制度について、大きな手続の流れについてお話したいと思います。

 生産緑地に指定はされたものの、その後の事情の変化により、生産緑地の指定を解除して欲しい場合が生じます。
 たとえば、相続が発生した場合において、農業を承継する方がいなくなってしまった場合や、相続税納付のために当該農地を処分したい場合などが考えられます。しかし、生産緑地のままでは、所有権の移転は可能であるものの開発行為が規制されているため、現実には処分は極めて困難といえます。
 
 そこで、次のような場合、土地の所有者は、市町村長に対し、生産緑地を時価で買取るよう申し出ることができます。

� 生産緑地地区に指定されてから30年を経過したとき
� 農業の主たる従事者が死亡し、又は、農業に従事することが不可能になったとき

 生産緑地は、税制面において多大な恩恵が受けられる一方、緑地保全という機能に鑑み、その指定解除については、このように厳しい要件が付されています。

 買取申出を受けた市町村長は、当該生産緑地の買取を希望する地方公共団体等のうちから買取の相手方を定めることができ、そうでなければ、特別の事情がない限り、当該生産緑地を時価で買い取ることとなります。

 市町村長は、買取の相手方を定めた場合を除き、買取申出があった日から1か月以内に、買い取る旨又は買い取らない旨を土地の所有者に通知しなければなりません。
 買取の相手方が定められた場合には、当該買取の相手方は、買取申出があった日から1か月以内に、買い取る旨の通知を土地の所有者及び市町村長に通知しなければなりません。

 市町村長が当該生産緑地を買い取らない場合には、当該生産緑地において農業をすることを希望する者がこれを取得できるようあっせんすることに努めなければなりません。

 市町村長のあっせんにもかかわらず、買取申出から3か月以内にあっせんがまとまらなかった場合には、生産緑地法による各種行為制限が解除されます。

 買取申出の手続の概略につきましては、以上のとおりです。
 土地の所有者が生産緑地の買取を申し出た場合、3か月以内には決着がつくことになっており、生産緑地指定により私権の制限を受ける土地の所有者の権利保護に配慮した制度となっています。

 それでは、次回以降、買い取り申出をするための要件(主たる従事者とは?農業に従事することが不可能な場合とは?)、買取時価の算定方法等の問題点につき、お話したいと思います。

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